神戸地方裁判所 昭和40年(ワ)497号 判決 1966年7月15日
主文
被告会社臨時株主総会の昭和三四年三月三一日、木村勝太郎、佐久間正夫、堅山秀造を取締役に、辻中一二三を監査役に各選任する旨の決議の存在しないことを確認する。
被告会社株主総会の昭和三六年四月二〇日、佐久間正夫、古宮健吾、秋山康次を取締役に、堅山秀造を監査役に各選任する旨の決議の無効であることを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として
一、原告は原告補助参加人伊坂スミとともに、昭和三三年六月一五日以来被告会社の取締役兼代表取締役であつた。
二、ところで、昭和三四年三月三一日午前一〇時被告会社本店において被告会社の臨時株主総会(以下旧株主総会と略称する)が開催され原告補助参加人伊坂スミが議長となり、木村勝太郎、佐久間正夫、堅山秀造を取締役に、辻中一二三を監査役に各選任したとして議事録が作成され、神戸地方法務局において、右四名の就任の登記がなされているが、被告会社は、右株主総会を開催した事実はない。右株主総会議事録は、訴外三好久一が勝手に作成したものである。
三、被告会社は、その後昭和三六年四月二〇日定時株主総会(以下新株主総会と略称する)を開催し、古宮健吾、佐久間正夫、秋山康次を取締役に、堅山秀造を監査役に各選任する旨の決議をした。ところで、新株主総会は被告会社の取締役と称する木村勝太郎、佐久間正夫、堅山秀造らによつて招集されたものであるところ、同人らを被告会社の取締役に、辻中一二三を監査役に各選任する旨の旧株主総会決議は前記のとおり存在しないのであるから、右木村らは新株主総会招集当時被告会社の取締役の地位にはなかつたものというべきである。すると新株主総会はなんら招集権限のないものによつて招集された単なる株主の会合にすぎず、このような会合でなされた決議は、株式会社の機関たる株主総会の決議として効力を生じないものであるから、結局新株主総会における前記取締役監査役の選任決議は当然無効である。
四、よつて原告は被告会社に対し、旧株主総会の前記取締役監査役ら選任決議の不存在であることの確認を求め併せて新株主総会の前記取締役監査役ら選任決議の無効であることの確認を求めるため本訴に及んだと述べ
被告の本案前の主張に対し
原告は辞任届である書面を被告会社事務員に預けたことはあるが、まだ被告会社に辞任の意思表示をしたことはないから取締役の地位を失つていない。仮に辞任したとしても、原告は商法二五八条一項によつて取締役の権利義務を有すると述べ
被告の本案の主張に対し
原告及び補助参加人らが被告主張のように訴外三好久一に旧株主総会の招集を委任したことはなく、仮に委任したとしてもこのような委任は無効である。昭和三六年四月二〇日新株主総会開催時の被告会社の株主数が被告会社主張どおりであることおよび株主全員が右新株主総会に出席し株主全員が右総会開催に同意し前記取締役監査役らを選任した事実についてはいずれも不知であると述べ
証拠(省略)
原告補助参加人ら代理人は
旧株主総会における取締役監査役ら選任決議は、株主でもなくまたなんらの招集権限をも有しない第三者の偽装にかかるもので不存在ないしは無効である。従つて右総会によつて選任されたと称する取締役木村勝太郎、同佐久間正夫、同堅山秀造および監査役辻中一二三は右取締役あるいは監査役の地位を取得するに由なく、同人らによつてなされた被告会社の業務執行行為は一切無効であると述べ
被告の本案前の主張に対し
原告がなした新株主総会の取締役監査役ら選任決議の無効確認の新請求は、旧株主総会の取締役監査役ら選任決議の不存在を前提とするものであつて、両者は請求の基礎を変更するものではないから右新請求は当然許されるべきであると述べた。
証拠(省略)
被告訴訟代理人は「本件訴を却下する」との判決を求め、本案前の答弁として
一、原告の本訴請求は次の理由で訴の利益を欠く
(イ) 被告会社は新株主総会決議により新たに取締役監査役を選任しその旨の登記を完了しているから、旧株主総会決議によつて選任された取締役および監査役はその地位を有しない。そうすると旧株主総会決議不存在確認請求の訴は、その利益を欠くものというべきである。
(ロ) 原告はかつて被告会社の取締役兼代表取締役の地位にあつたが数年前に退任し、その後任者として旧株主総会で選任された取締役らも任期満了によりすでに退任し、さらに右のとおり、新株主総会において新たな取締役らが選任されその旨登記し今日に至つている。このように原告の右退任後すでに数年を経過している現在、仮に原告の右退任が無効であるとしても、もはやその任期満了のため、取締役資格の回復を求めるに由なく、しかも原告はその所有にかかる被告会社株式を訴外丸善石油株式会社(以下丸善石油と略称する)に譲渡しているため被告会社の株主でもないのであつて、現在被告会社と法律上なんらの利害関係もないのであるから、もとより旧株主総会の取締役監査役ら選任決議の不存在確認あるいは新株主総会の取締役監査役ら選任決議の無効確認を求めることは許されない。
(ハ) 被告会社は、現在債務のみをかかえ営業停止の状態にあるのであつて、かかる被告会社に対し、右のような無効確認の請求をすることは何ら実益のないところであり、権利の濫用として許されない。
二、原告は本件の控訴審において、請求の趣旨、原因を追加変更して、新株主総会における取締役監査役ら選任決議の無効確認を求めるが、右新請求は、旧株主総会における取締役監査役ら選任決議不存在確認の訴と請求の基礎を全然異にするものであるから、別訴でなされるべきものであり、これを訴の変更の形式でしかも控訴審において請求することは許されないというべきであるから、右新請求は不適法であると述べ
本案につき「原告の請求を棄却する」との判決を求め、
答弁として
一、原告主張の事実中、原告が原告補助参加人伊坂スミとともに昭和三三年六月一五日以来被告会社の取締役兼代表取締役であつた事実および原告主張のような議事録が作成され原告主張のように取締役三名監査役一名の就任登記がなされた事実は認めるがその余の事実は否認する。
二、旧株主総会開催については、既に代表取締役であつた原告および原告補助参加人伊坂スミ等取締役並びに監査役全員が辞任届を提出し、同人らは被告会社の全株式を有する訴外三好久一に対し取締役監査役辞任に伴う新役員の選任に関する株主総会招集手続をなすことを委任した。そこで訴外三好久一は、代表取締役としての原告の代理人又は機関として、株主である自己に総会の招集通知をし、昭和三四年三月三一日被告会社本店において株主総会を開催したところ、辞任届済みの取締役らは出席しなかつたけれども、右総会において予め就任内諾を得ていた木村勝太郎、佐久間正夫、堅山秀造を取締役に、辻中一二三を監査役に各選任の決議をし、次いで取締役間で持廻り決議のうえ、木村勝太郎が代表取締役に就任したものである。
三、新株主総会については、仮に原告主張のように、これが招集権限のない者によつて招集されたとしても、このような招集手続上の瑕疵は、新株主総会における取締役監査役ら選任決議を当然無効ならしめるものではない。
四、さらに新株主総会については、当時の被告会社の株主全員即ち訴外木村勝太郎外六名が右総会に出席し、右総会において全株主が右総会を開催することに同意し、総会の目的である被告会社取締役監査役の改選案を了知してこれに臨み前記のように、訴外佐久間正夫、同古宮健吾、同秋山康次を取締役に、訴外堅山秀造を監査役に各選任することに同意しているのである。このように、総ての株主が現実に出席して、総会を開くことについて異議なく更に全株主が賛成して決議をしている場合、その総会は違法ではなく、その決議は株主総会の決議としての効力を認められるべきであると述べた。
証拠(省略)